マレーシアの複雑な言語事情。国語はマレー語だけど英語は通じる?

マレーシア

マレーシアと言えば多民族国家だということがよく知られています。多民族ということは多言語。マレーシアではいくつもの言語が使用されています。

では、マレーシアに住んだり旅行したりするには、何語を使えばいいの?という疑問が出てくるかもしれませんが、それに一言で答えるのは難しいです。

この記事では、
・それぞれの民族の使用言語
・(在住者だから知っている)ちょっとびっくりする複雑な言語事情
・私たち日本人はマレーシアで何語を使ったり学べばいいのか?

・マレーシアで英語を使う時の注意
など説明します。

 

1. マレーシアの民族と使用言語

Wikipediaによると、「マレーシアの公用語はマレー語で、英語が準公用語」とされています。
(「Bahasa Melayu: マレー語」と呼ぶか「Bahasa Malaysia: マレーシア語」と呼ぶかの論争があるのですが、ここでは簡単に「マレー語」と呼びます。)

これは確かにそうです。
道路標識などはマレー語表記。でも街中では普通に英語が使われています。

言語の問題は民族と密接な関係があるので、民族の面から見ていきましょう。

マレーシアには主にマレー系、中華系、インド系の民族がいます。
2022年マレーシア統計局のデータによると、マレー系は約70%(先住民15%を含む)、中華系は約23%、インド系は約7%という人口比率です。

それぞれの民族の言語は、マレー系マレー語
中華系は中国語なのですが、地域やバックグラウンド、環境によって使う方言は広東語、福建語、北京語などに分かれます。
インド系タミル語、ヒンディー語など。

ほとんど日本語だけで物事が済んでしまう日本の私たちにとってはこんなにたくさんの言語が飛び交っている日常なんて想像できませんよね!
でも本当にそこらへんで多言語が聞こえてくるのがマレーシアなのです。

こんな多言語国家なので、共通語として広く英語が使われています。

クランバレー(クアラルンプールとスランゴール州を合わせた首都圏)では英語だけでほとんど何でも済ませられます。

旅行をしたり在住する際、英語ができればほとんど問題ないでしょう。

 

2. 多言語国家のもっとディープな言語事情

上に書いたようなことは調べればすぐに分かることなのですが、実際にマレーシアに住んでいると、さらに複雑な言語事情があることが分かってきました。

ちょっとびっくりするようなディープな言語事情を紹介します。

 

マレー語ができないマレーシア人がいる

マレーシアの国語はマレー語なので、マレーシア人はみんなマレー語ができるはず…と思う外国人は多いです。

マレー系は家庭で使うのも学校で使うのもマレー語、という人が多いので、もちろんマレー語が第一言語で一番得意です。

しかし、その他の民族にとってはそうではありません。

マレー語はマレー系の言語であり、マレーシア国民全員の第一言語ではないのです。

昔中華系マレーシア人の夫が日本で何かのテストを受けなければいけなかった時、多言語の中から好きな言語で受けられるということだったので、英語を選んだそうです。
すると、係の人が「マレーシア人ですよね?マレー語ありますよ!」と言ったので、夫が英語の方がいいと答えると、「なんで?マレー語あるのに…」ととても不思議そうにしていたと言うことでした。(夫はマレー語も得意ですが、英語の方がより得意です。)

マレーシアの学校は、政府系、私立などいろいろあり、学校で使う媒体言語もマレー語、中国語、英語など様々です。
しかし、マレー語は国語なのでみんな学校で習います。
それなのにマレー語が分からないマレーシア人がいるなんて…?と思うかもしれませんが、ちょうど日本人が学校で英語を習うようなものだと思うとすんなり分かるでしょう。
全く分からないわけではない。簡単なことなら分かる。でも普段使う機会がないので使おうと思っても使えない。そんな感じです。

例えば中華系なら、家で中国語を使います。学校では英語で勉強しているとしましょう。首都圏に住んでいる人は外に出た時は英語で事足ります。そうすると、マレー語は学校の授業で習うだけで、使う機会はほとんどないのです。

そのように家庭環境、教育環境、住んでいる地域などによってはマレー語を使わないので、マレーシア人なのにマレー語ができないまま大人になってしまう人もいるのです。

 

マレー語が分からないまま大人になって困らないのか?というと、ビジネスの場では英語が使われることが多いので、仕事を選べばほとんど困りません。
というか、英語ができないとできる仕事が限られてしまうので、そっちの方が困ります。

しかし、1つだけマレー語ができないと困る場面があります。
それは、移民局(イミグレーション)や税務署などのお役所。
そのようなところは基本的にマレー語です。書類もマレー語。

私のような外国人が行ったら仕方がないので英語で対応してくれる係員もいますが、中には英語があまり得意ではない人もいます。マレーシア人だと「なぜマレーシア人なのにマレー語で話さないのか」という態度を取られるかもしれません。場合によっては、外国人に対しても「ここはマレー語オンリー!」というところも。

そのような場合、マレーシア人なのにエージェントを雇って代行してもらう…なんてこともあるようです。

 

中国系だけど中国語が分からない人もいる

中華系は、KLだと広東語、ペナンだと福建語、など地域によって多く話される傾向のある方言がありますが、絶対にそうだとは言い切れません。
家族の歴史によってはKLで生まれ育ったけれど福建語を話す家庭もあります。
同じ民族が集まると民族の言語を使って話すことも多いので、中華系ばかりの友達が集まっている時に会話が広東語になったけれど1人だけ分からない…ということも起こったりします。

また、両親とも中華系だけど、それぞれ違う方言を話すため、家庭内の会話は英語となり、子どもの母語が英語になる、ということもあります。両親がそれぞれ子供に自分の知っている中国語の方言で話しかけているので子供も簡単な中国語会話ならできるようになることも多いのですが、家庭によってはそのような取り組みをしないため、ほとんど中国語が分からない中華系の人もいます。

また、家庭で中国語を話しているので日常会話なら問題なくできるのですが、学校ではマレー語や英語を媒体言語として勉強しているので、中国語は話せるのに読み書きが全くできない中華系という人は結構多いものです。

私は学ぶ時に視覚優位なので、文字などを見ないで耳だけで言葉を覚えられるってすごいな!と素直に感心してしまいます。

私の夫もこのパターンで、広東語は話せるけど読み書きはできませんでした。
でも日本語を学んで読み書きできるようになったので、日本語の漢字をヒントに中国語の漢字もところどころ読めるようになった…という珍しいパターンです(笑)。

 

マレー系よりマレー語が得意な中華系がいたりする

マレーシアの国立大学はマレー系以外の民族に当てられる枠が決められており、非常に狭き門です。
当然、超成績優秀でなくては合格できません。そして、マレー語もとても高いレベルが要求されます。

なので、名門国立大学に通っている中華系の学生などは、平均的なマレー系よりよっぽどマレー語が得意だったりするのです。

 

広東語を操るインド系がいたりする

インド系は7%と少数派です。
親が子どもの将来を考えた時、ヒンディー語やタミル語などの自分たちのルーツである言語を学ばせるより、別の言語を頑張った方がマレーシアで生きていく上で有利になると考えるのも無理はないでしょう。

そうすると、中国語を学ばせたほうがビジネス的に有利と考え、あえて戦利略的に中華系学校に入学させる親もいたりします。

中華系の学校では中国標準語を媒体として教えていますが、友達の会話が広東語だったりすると、広東語も覚えて流暢になったりします。

そうすると、複数の中国語の方言を操るインド系に育つことになります。

インド系と中国語…なんだか摩訶不思議な組み合わせがマレーシアの多様性をよく表していますね。

 

3. マレーシアで英語を使う時の注意

という感じでかなりディープな言語事情を紹介しましたが、旅行者や居住者である日本人は、難しく考えずに英語を使えばほとんどOKです。

マレーシア人は欧米人のようなネイティブレベルの英語を操る人からブロークンな英語を話す人まで様々な英語レベルの人がいますが、英語自体は大体どこでも通じます。

ただ、英語を使う上でいくつか注意したいことがあるので紹介しますね。

 

言葉はシンプルに!

あまり複雑な文を言うとうまく意思疎通ができないことが往々にしてあります。もちろん話をする相手の英語レベルにもよるのですが、もしあまり通じてないと思ったら次のようなことに気をつけてみましょう。

まず、文はなるべくシンプルに、二重否定など複雑な構造の文は控えた方がいいでしょう。
そして、一番大事な部分だけを強調して短く言うと通じやすくなります。
それから、特定の地域だけでよく使われている特殊な言い回しなどせずに、誤解の生まれないような言葉を使いましょう。

 

数字はちゃんと確認する!

旅行者だと特に値段を確認したりすることがあると思います。
この時クセモノなのが「マレーシア人は母音を短く発音する」という癖です。

例を挙げると、”car park” (駐車場)をネイティブが発音すると「カーパー(ク)」という感じになりますが、マレーシア人は極端に書くと「カッパッ」という感じになります。
つまり、伸ばす棒「ー」が短いんですよ。

なので、「fifteen: 15」と「fifty: 50」が両方とも「フィフティ」に聞こえるなど、区別がつきにくいことがよくあります。

特に値段について話すときは、このような誤解がないように、

“One five (15)? Or five zero (50)?”

と数字を一つ一つ言って確認しましょう!

マレーシア人もこういう言い方をして確認することがよくあります。

 

それでもほんの少しのマレー語が笑顔を呼ぶ

マレーシアでは英語でコミュニケーションをとれば事足りるのですが、せっかくマレーシアにいるので、ごくごく簡単なマレー語を覚えて使うと、途端に相手の態度が柔らかくなることがあります。

これは逆の立場に立ってみれば当然ですよね。
外国人がたどたどしく「ありがとう」と言ってくれれば、日本に対する敬意を感じて嬉しくなるでしょう。

“Terima kasih”(ありがとう)などの基本フレーズは覚えて機会があれば使ってみるといいですね。きっと笑顔が見られるでしょう。

 

とはいえ、マレー語を使って喜んでくれるのはマレー系のみ

ただし、相手が中華系やインド系だったらマレー語を使っても特に喜ばれないと思うので、相手がマレー系の場合に限る、ということを覚えておきましょう。

マレー語は世界で一番簡単な言語とも言われ、日本人にも非常に発音しやすい発音体系です。
せっかくマレーシアにいるのだからマレー語を勉強してみるのもいいでしょう。
でも、中華系マレーシア人に頑張ってマレー語で話しかけても、「?」という顔をされると思います。

 

4. 最後に

私の見聞きしてきたことを元にマレーシアの複雑な言語事情について書きました。

日本はほとんど「母国語=母語」ですが、全くそうではない世界なのがマレーシアです。

本当に日本で育ってきた人にとってはびっくりするくらい多様性に溢れた世界。もちろんマルチリンガルにはマルチリンガルの苦労があるのですが、それでもお互いに歩み寄ってコミュニケーションをとっている姿はすごいと思います。

この記事が、皆さんがマレーシアの言語事情を理解する上での参考になれば幸いです。

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